企業に70歳までの雇用の確保を努力義務とするなど六つの関連法が来年4月から実施されることに、農業現場から戸惑いの声が上がっている。中高年の新規就農者の確保が進まない可能性があるからだ。識者は、農業の基盤強化の観点から、地域農業を支える中高年の新規就農について、年齢別のライフプランなどを国が就農希望者に示すべきだと話す。(川崎学)
中高年人材集まるか
定年帰農者の支援に力を入れるJA福島さくら郡山地区梨生産部会の菅島力雄さん(62)は3年前に神奈川県から新規就農した。「60歳の定年目前だから新規就農を考えられた。70歳では就農しない」(菅島さん)と語る。同部会の佐東富士夫部会長は「70歳で農業をしている人もいるが、継続して営農しているからだ」とした上で「農政で定年帰農者を集めようという流れもあるが、70歳での就農は難しい。矛盾が生まれてくる」と法改正に不満を抱く。
秋田県鹿角市で定年退職者の受け入れに力を入れる農事組合法人鏡田ファーミングの木村功相談役は「縦割りの施策だと感じる。厚労省と農水省がつながりを持って行政を進めてほしい」と話す。
木村相談役は「定年退職者の人材あっせんバンクのようなものがあれば相談したい」と話すが、「中高年が集まらないなら外国人材の活用も視野に入る」とする。 関連法の改正では、65歳までの定年延長や再雇用など雇用確保措置を70歳までの努力義務にする。他社への再就職、フリーランス契約、起業支援、社会貢献活動への支援も選択肢にし、70歳まで収入があるよう企業が資金提供する。社会保障制度の担い手を増やすのが狙いだ。国家公務員の定年引き上げ法案もこれらの動きに合わせたものだ。
2018年の新規就農者5万5800人のうち、52・2%は60歳以上だ。また15年の農林業センサスによると農業就業人口のピークは65~69歳(34万6773人)で、60歳以降に大幅に増加する傾向がある。一方、70~74歳で減少することから、70歳を機に農業を引退する人が増えることが分かる。
新たな食料・農業・農村基本計画では定年帰農に関して言及はないが、中小・家族経営を「地域社会の維持の面で重要な役割を果たしている」と評価。若手が大規模に営農し、地域を支えるという流れから風向きは変わっている。農地維持には定年帰農者が欠かせないが、定年延長で新規就農者が減少する恐れもある。集落営農などでは、会社勤めで培ったノウハウを生かし定年帰農者が活躍しているケースも多い。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース